文三木





現パロ文三木。潮江社会人。三木大学生。



『共有したいよ』









今日は二人での久しぶりの外出だった。




忙しい社会人になった先輩はそれでも貴重な休みを僕との時間にあててくれる。

それだけで十分だった。




「見てください!これとかすごくいいですよね」




絵の具をのせるように描いた柔らかな輪郭の絵を指し、パッと後ろの先輩を振り返った。

誰が描いたものかは知らない。

他で目にしたことがなかったのであまり有名な画家のものではないのだろう。




休日だというのにこじんまりとした美術館のなかは、まばらにしか人はおらず心地の良い静寂に包まれていた。

人気が多すぎるところは好きではないので、そういう少し寂しい感じがなんとなく好きだった。




「おう。いいんじゃないか」



そう言って僕が指差した絵を見やった先輩の目の下には、やっぱり隈がある。




(疲れているだろうな)



思うと同時に先輩はこんな絵には興味ないかもしれない、なんて余計な考えが浮かぶ。




不意に微かな振動音がして、先輩がポケットから携帯を取り出す。

「わりぃ」と僕に告げて耳に携帯をあてた先輩は誰かと何かを話している。

その様子はとても楽しそうなものではなくて、僕のまったくわからない話だからきっと仕事の話なんだろうな、と思った。






ぼんやりと壁にかけられた絵を見つめる。

抽象的なその絵は、何を描いているかわからないが、何故か胸をかきむしるような寂寥感を覚える。




「悪かったな、会社からだ」



先輩の声が耳に入り、見上げた彼は少し眉間に皺を作っていた。

なにかあったんだろうな。

僕の直感がそう悟っていた。




















「あそこに展示されていた作品が」



一通り見終えて入った美術館のカフェで、今の季節にぴったりの温いミルクティーを口に運びながら、絵画の感想をつぶやく。

横でコーヒーを一口すすると「おう」と一言相づちをうって先輩は何事かを考えるように押し黙った。






(やっぱり)




先ほどの電話で心配事ができたのだろう。

仕方がない、仕方がないことだ、と心で唱えながら、胸になにかがつっかえる感じがした。




「わりぃ。仕事が気になって、途中から楽しむ余裕なくなった」



本当に申し訳なさそうにまじめな先輩がぽつりとこぼした一言に、どこかが痛んだ。

わかってはいたけれど、明確な言葉にされると衝撃は威力を増すようだ。




「いえ、気にしないでください」




本当は話したかった美術館の感想や、カフェの窓から見える景色を見て思ったこと、これからの予定。

そういったことを押し隠して発したその一言は、どれだけ僕を繕ってくれただろう。

はりつけられた笑顔が可哀想だった。








ただ、一緒になにかを感じてくれていないことが悲しかった。
















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まなかとの実話がモチーフ。
まぁ、そんな感じ。