こへ滝




こへ滝。若干エロ。
苦手な方は要注意。
ぬるくR18なので高校生以下は見てはダメ。
報わない滝夜叉丸。


『非生産の生産』




























































僅かな気配を感じた。




もう寝てしまおうと床についていた身を起こす。私の部屋の外から感じる気配の主が誰かは、なんとなく、わかっていた。




隣で眠る喜八郎を起こさぬように気配を断って、音を立てぬように扉を開け、廊下に出る。

一歩を踏み出した瞬間、すっと後ろに気配が移り、大きな手に口を覆われた。






「っ…!」





土の匂いが鼻をかすめる。




「滝夜叉丸」



耳元で低く囁かれる。ひやりとした感触が同時に首筋に訪れた。



「そんなに不用意では簡単に命を落とすよ」



口を覆っていた手が離れていく。

そのまま腕は私の身体を捕らえ、ぐっと力を入れられ胸が圧迫される。




「…七松先輩」



口角を僅かにつりあげて笑うと、七松先輩は私の手を引き長屋の廊下を歩きだす。

掴まれた部分が痛みを訴える。かなり力が加えられているようだ。

ふと表情を伺おうと思ったが、生憎私の前を歩く先輩の髪が左右に揺られているのしか見えなかった。




廊下をつきあたった長屋の奥。誰にも使われていない部屋の扉を開けた。

ぐっと手を引かれた反動で私の身体は部屋の中へと放られる。






カタン、と小さな音をたて扉が七松先輩の後ろで閉められた。




「…」



私の前に立つ七松先輩の眼になにかぎらぎらしたものが宿っているようで、私は先輩が私に何を求めているかを知る。



「滝」



少し見上げる形の私の頬を、指先で辿っていく。

すっ、と肩に置かれた手に引き寄せられたかと思うと、首に湿り気を帯びた熱と肉を裂かれる痛みを感じた。




「っ!」




息をつめて痛みをこらえる。

眉間に皺が寄るのがわかる。

ぬめる感触は私の血液なのか、先輩の唾液なのか。

暗い部屋の中、自分の首筋を確認する術もなく。




「痛い?」



私の眉間を指でなぞりながら尋ねる先輩は笑っている。どことなく獲物を追い詰めて、舌なめずりする獣のような感じがした。























「ん、あ…っ!」




乱れた呼吸が何もなく寂しい部屋を満たす。

七松先輩の舌が触れる部分から、耳を塞ぎたくなるような淫らな音が生み出されている。



「…ふっ」



声を抑えようと覆った掌にあたる息が熱い。

はだけられ床に落ちた寝衣は私の背中の下で、くしゃりと皺を作っていた。

不意に浮いた肋骨のラインを撫でられて、身体がひくりと反応する。

含み笑いが聞こえた、と思えば同じところを舌が辿る。




「あ…、七ま、つ、先輩っ」



伸ばした手が無意識に先輩の髪の毛を掴んだ。

反応も返さず、腰を揺すられる。

痛みなんかたいしたことない。

初めての時も耐えられないほどではなかった。気持ちがいいわけでもなかったが。






快楽だけを求める行為。

そこにはきっと何の感情も存在しないだろう。




先輩はたまにこうして私と肌を合わせる。

それは大抵実習などで気が高ぶっているときで、私の都合は関係ないようだった。




何故私なのか。




以前はよく考えていたが、最近では考えることをやめた。

無駄なことだ。





「っ…!」




私のなかに熱い何かを感じる。

腰にぞわりとした感覚が走った。

しかし、そこから何かが生み出されるわけでもなく。





非生産的な行為。




生命も愛情も何もかも。





「七松先輩っ…!」



絞りだすように名前を呼んだ。

首筋に熱い息は感じたが相変わらず返事はなかった。





「好きですっ…!」



呟いた言葉は宙を舞う。

虚しくなって先輩の背に腕を回した。

無駄なことだと知っていながら、愛情を求める私はなんとも滑稽。













何も生み出さないはずのこの行為も、私の心に途方のない虚しさだけを生み落としていくのだ。







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こへ滝。
愛してほしい滝。